・・・延焼を支配するものは当時の風向風速気温湿度等のみならず、過去の湿度の履歴効果も少なからず関係する。またその延焼区域の住民家屋の種類、密集の程度にもよることもちろんである。これらの支配因子が与えられた場合に、火災が自由に延焼するとすればいかな・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・今仮りに更に一歩を譲ってこれらの困難を切り抜けられるとして見ても、まだ弾性体に通有な「履歴の影響」という厄介な事が残っている。 履歴の影響とは何ぞや。定まった弾条に定まった重量を吊し、定まった温度その他の同時的条件を一切一様にしても、そ・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・自覚的自己は履歴を有ったものでなければならない。時間空間の形式というものも、自己表現的世界の自己形成の形式として、論理的に考えられるのである。かかる世界は多の自己否定的一として時間的に、一の自己否定的多として空間的であるのである。表現するも・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・たとえば、各地方に令して就学適齢の人員を調査し、就学者の多寡をかぞえ、人口と就学者との割合を比例し、または諸学校の地位・履歴、その資本の出処・保存の方法を具申せしめ、時としては吏人を地方に派出して諸件を監督せしむる等、すべて学校の管理に関す・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・履歴性行等 蕪村は摂津浪花に近き毛馬塘の片ほとりに幼時を送りしことその春風馬堤曲に見ゆ。彼は某に与うる書中にこの曲のことを記して馬堤は毛馬塘なり、すなわち余が故園なりといえり。やや長じて東都に遊び、巴人の門に入りて俳・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・手数の掛かった履歴である。 木村が文芸欄を読んで不公平を感ずるのが、自利的であって、毀られれば腹を立て、褒められれば喜ぶのだと云ったら、それは冤罪だろう。我が事、人の事と言わず、くだらない物が讃めてあったり、面白い物がけなしてあったりす・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ あなた僕の履歴を話せって仰るの? 話しますとも、直き話せっちまいますよ。だって十四にしかならないんですから。別段大した悦も苦労もした事がないんですもの。ダガネ、モウ少し過ぎると僕は船乗になって、初めて航海に行くんです。実に楽み・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫