・・・背面の濃い杉山には白い靄が流れている雨の晴れ間に、濡れた林檎が枝もたわわに色づいており、山内劇場と染め出した浅黄の幟が、野菜畑のあぜに立っていた。〔一九三六年十一月〕 宮本百合子 「上林からの手紙」
・・・ 明日の口のことを心配して居た人が一朝境遇が変ると、すべての心配は試験だけになった。面白いもんですなあ、人生は……」 山内氏このように話す、妻君傍で「又あんな話、苅田さん御退屈でしょう」と写真帖など出し、家鴨の居るの 羊の居るの 子・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・この最初の二冊を読んだ人々は一層熱心に第三巻を待っているのであろうし更に第十巻全部が滞りなく完訳されることを切望しているのであろうと思う。山内義雄氏はフランス文学のうつし手として、これまでも多くの意義ある業績を示しておられるが、この「チボー・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
・・・互に励しあい勉強しあって、夜が更けてからの気味わるい上野の山内をみんでかたまって帰って行くような扶け合いから、これらの人々は若い女の人たちの集りとしては珍しく、時によっては経済上の援助もしあった。その時分、一番早く一本だちになって開業した女・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・兇悪な戦争が、訳者山内義雄氏と出版社白水社の仕事を阻んだ。六年を経て、一九四六年十一月に第八巻「一九一四年夏」第一部が出版されて、更にきょうまで三年の月日が沈黙にすごされている。「チボー家の人々」の日本語版がめぐりあったこれらの障害は、一つ・・・ 宮本百合子 「脈々として」
出典:青空文庫