・・・古歌必ずしも崇拝するに足らず。都々一も然り。長唄、清元も然り。都て是れ坊主の読むお経の文句を聞くが如く、其意味を問わずして其声を耳にするのみ、果して其意味を解釈するも事に益することなきは実際に明なる所にして、例えば和文和歌を講じて頗る巧なり・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・あなたはあんまり御用がおありになって、あんまり人に崇拝せられていらっしゃるのですもの。あなたが次第に名高くおなりになるのを、わたくしは蔭ながら胸に動悸をさせて、正直に心から嬉しく存じて傍看いたしていました。それにひっきりなしに評判の作をお出・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
○十年ほど前に僕は日本画崇拝者で西洋画排斥者であった。その頃為山君と邦画洋画優劣論をやったが僕はなかなか負けたつもりではなかった。最後に為山君が日本画の丸い波は海の波でないという事を説明し、次に日本画の横顔と西洋画の横顔とを並べ画いてそ・・・ 正岡子規 「画」
・・・この間に立ちて形式の簡単なる俳句はかえって和歌よりも複雑なる意匠を現わさんとして漢語を借り来たり佶屈なる直訳的句法をさえ用いたりしも、そは一時の現象たるにとどまり、古池の句はついに俳句の本尊として崇拝せらるるに至れり。古池の句は足引の山鳥の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・というところが一般の感情のうちに残っていて、太宰もよまれ田辺も崇拝者をもっている。この「しかし」こそ微妙です。赤岩栄氏の存在はいかにも時代的であり過渡的で、この「しかし」の心理に深い連関をもっています。民主的文化確立の道は、この社会的基盤の・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・まして、彼が私の崇拝者ででもあるというなら。あの辺の自然はおう揚で規模の壮大な野放しの美に充ちているから、その位のありふれたロマンスでもきっとそうこせこせ極りわるい思いをさせずに存在させたでしょう。しかし、何という私はおばあさんに縁の深い人・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・そうしたってプロテスタント教がその教義史と寺院史とで毀損せられないと同じ事で、祖先崇拝の教義や機関も、特にそのために危害を受ける筈はない。これだけの事を完成するのは、極て容易だと思うと、もうその平明な、小ざっぱりした記載を目の前に見るような・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・Artzibaschew は個人主義の元祖 Stirner を崇拝していて、革命家を主人公にした小説を多く出す。これも危険である。それに肺病で体が悪くなって、精神までが変調を来している。 フランスとベルジックとの文学で、Maupassa・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・呪物崇拝などということは全くのヨーロッパ製である。ニグロ・アフリカのどこを探したってニグロの間には呪物の観念などは存していない。 こういうわけで、「野蛮なニグロ」という考えはヨーロッパの作り事である。これがまた逆にヨーロッパに影響して、・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・彼らを英雄たらしめたのは、民衆の心をつかみ得る彼らの才能にもよるが、また民衆の側の英雄崇拝的気分にもよるのである。 群雄のうち最も早いものは、北条早雲である。彼は素姓のあまりはっきりしない男であるが、応仁の乱のまだ収まらないころであった・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫