・・・俺の脚は両方とも蚤の巣窟と言っても好い。俺は今日も事務を執りながら、気違いになるくらい痒い思いをした。とにかく当分は全力を挙げて蚤退治の工夫をしなければならぬ。……「八月×日 俺は今日マネエジャアの所へ商売のことを話しに行った。するとマ・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・今宮は貧民の街であり、ルンペンの巣窟である。彼女はそれらのルンペン相手に稼ぐけちくさい売笑婦に過ぎない。ルンペンにもまたそれ相応の饗宴がある。ガード下の空地に茣蓙を敷き、ゴミ箱から漁って来た残飯を肴に泡盛や焼酎を飲んでさわぐのだが、たまたま・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ そこにパルチザンの巣窟があることは、それで、ほぼ想像がついた。 イイシへ守備中隊を出すのは、そこの連絡を十分にするがためであった。 吉永は、松木の寝台の上で私物を纏めていた。炊事場を引き上げて、中隊へ帰るのだ。 彼は、これ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ 大隊長は、そのパルチザンの巣窟を、掃除することを司令官から命じられていた。「……しかし、ここには、パルチザンばかりでなしに、おとなしい、いい百姓も住んどるらしいんです。」 通訳は攻撃命令を発する際に、村の住民の性質を説明してこ・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・も、支那の流儀にして内行の正邪は深く咎めざるのみならず、文化文政の頃に至りては治世の極度、儒もまた浮文に流れて洒落放胆を事とし、殊に三都の如きはその最も甚だしきものにして、儒者文人の叢淵即ち不品行家の巣窟とも名づくべき悪風を成し、遂に徳川を・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫