・・・鋳金の工作過程を実地にご覧に入れ、そして最後には出来上ったものを美術として美術学校から献上するという。そううまく行くべきものだか、どうだか。むかしも今も席画というがある、席画に美術を求めることの無理で愚なのは今は誰しも認めている。席上鋳金に・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・ その発火のもとは、病院の薬局や、学校の理化学室や、工場なぞの、薬品から火が出たのや、諸工場の工作ろや、家々のこんろなぞから来たものもありますが、そのほかにとび火も少くなかったようです。何分地震で屋根がこわれ落ちているところへ、どんどん・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・プロメトイスが最初に人間に教えたのは天文学ではなくて火であり、工作であった……」 これに和してモスコフスキーは、同時に立派な鍛冶でブリキ職でそして靴屋であった昔の名歌手を引合いに出して、畢竟は科学も自由芸術の一つであると云っている。しか・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・直線運動としては囚徒や職工の行列、工作台上の滑走台、ジュアンヌの机の前の壁を走り上る数字の列等が著しいモチーフとして繰り返される。円形運動ではレコードや、ダイアルの回転があるほかに、新工場開場式のクライマックスに吹き起こる狂風の複雑な旋転的・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・早く工作してしまわないと、取り返しのつかないことになる。私はこの山の海に向いたほうでは、あすこがいちばん弱いと思う。」老技師は山腹の谷の上のうす緑の草地を指さしました。そこを雲の影がしずかに青くすべっているのでした。「あすこには熔岩の層・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・「与党工作の舞台裏」で楢橋氏が首相を動かしているいきさつが解剖され、極めて興味あるくだりがあった。これからつくろうとする新党の性格にふれて、十四日、楢橋氏は首相に向い次のような意味の話をした。「あなたは三菱の婿であり、これまで資本家の代表で・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・二の慣用語として、主体性を云い、人民的民主主義の方向を抹殺して、個人を云い自我を云いたてた人々は、現在、その人々の目にもあきらかなように、反動的農民組合の分派が、自分たちを主体派とよび、労働組合の分裂工作が民主化同盟とよばれていることについ・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・それにつられて御丁寧にも金権政治工作に毎日を買いわたしてしまっているのは、ほかならぬ購読者なのであるから。 こんにち、ジャーナリズムの功罪は、ひとごとでなくなった。どうせジャーナリズムはますます大資本の独占的企業になりつつあるのだから、・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・ 吉田内閣のやりかたは下山事件、三鷹事件、どれをみても裏面工作、小細工陰険で、新聞デマは極度に使用されている。手口がそろそろ見えてきた。吉田首相は政府自身の工作で「国内不安」を挑発し、そのデマ記事を世界に流して国際反動の力を動員しようと・・・ 宮本百合子 「犯人」
・・・ 屋根にトタン板を並べた鋳鉄工作所から黒い汚水と馬糞が一緒くたに流れ出して歩道の凹みにたまっている。 内部は何があるのか解らぬ古コンクリート塀がある。 からからした夏の太陽ばかりがこれらゆがんで小さい人間のいろんな試みの上に高く・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫