・・・ 送金延着への絶えざる不安。その憂鬱と屈辱と孤独と、それをどの「洋行者」が書いていたろう。 所詮は、ただうれしいのである。上野の博覧会である。広小路の牛がおいしかったのである。どんな進歩があったろうか。 妙なもので、君たち「洋行者」・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・高崎、大宮以後十二時間の延着で、田端に夜の九時すぎつく。金沢からのり合わせた男、荷もつはあり、自動車はないと云うので、自分がカイ中電燈をもって居るのをだしに、あまり智識もなさそうな男二人をさそい、荷を負わせてつれて行く。自分はAと、もう一人・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ ――東京は四十分ばかり延着いたします。地震で線路の上へ煙突が倒れたもんですから。 前の座席の旅客が雑誌キングをわきに放り出して二十六日の新聞をひろげていた。こっち側から見える。「日本刀焼ゴテで奮戦・文芸戦線大異状。」前田河広一郎・・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・何にしても、夜歩くのは危険極ると云うのに、列車は延着する一方で、東京を目前に見ながら日が暮てしまったので、皆の心配は、種々な形であらわれた。知る知らないに拘らず、同じ方面に行く者は、組みになった。荷を自分だけで負い切れなく持っている男は、自・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫