・・・流行のものを衣服し、流行のものを飲食し、流行の家屋におり、流行の物を弄ぶ。 この点より見れば、人はあたかも社会の奴隷にして、その圧制を蒙り、毫も自由を得ざるものにして、いかなる有力の士人にても、古今世界にこの圧制を免かれたる者あるを聞か・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・たとえば、儒者が易経を講ずれども、ただその論理を講ずるのみにして、卜筮を弄ぶを恥ずるが如し。その仏を駁撃するはあたかも儒者流の私なれども、この私論の結果をもって惑溺を脱したるは、偶然の幸というべし。支那の儒者も孔孟の道を尊び、日本の儒者・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・こうなると人間は獣的嗜慾だけだから、喰うか、飲むか、女でも弄ぶか、そんな事よりしかしない。――一滴もいけなかった私が酒を飲み出す、子供の時には軽薄な江戸ッ児風に染まって、近所の女のあとなんか追廻したが、中年になって真面目になったその私が再び・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・くつかのことが考えられるであろうが、その一つとして、謂わば自分のうちの座敷へひとをよんでおいて、そこが自分のうちだというその場の気分的なものから妙に鼻ぱしをつよくして座談会の席上に嘲弄的、揶揄的口調を弄ぶようなことがあるとしたら、それも見っ・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫