・・・鼠の穴の前に張番をしている鸛のように動かずにいるのね。お前さんには自分の獲ものを引きずり出すことも出来ない。追っ駈けて攫まえることも出来ない。お前さんはただ獲ものの出て来るのを、澄まして待っているのね。いつでもこの隅のところに坐っていてさ。・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・橋に火がついて燃えているので巡査が張番していて人を通さない。自転車が一台飛んで来て制止にかまわず突切って渡って行った。堀に沿うて牛が淵まで行って道端で憩うていると前を避難者が引切りなしに通る。実に色んな人が通る。五十恰好の女が一人大きな犬を・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・誰か張番してるんだな。「オイ、俺だ。開けて呉れ」私は扉へ口をつけて小さい声で囁いた。けれども扉は開かれなかった。今度は力一杯押して見たが、ビクともしなかった。「畜生! かけがねを入れやがった」私は唾を吐いて、そのまま階段を下りて門を・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・六日夜十一時頃、基ちゃんが門で張番をして居ると相生署の生きのこりの巡査が来、被服廠跡の三千の焼死体のとりかたづけのために、三十六時間勤務十二時間休息、一日に一つの玄米の握り飯、で働せられて居る由。いやでもそれをしなければ一つの握り飯も貰えな・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
出典:青空文庫