・・・ シーモノフは若い強壮な肉体と精神をもち、人生をたのしむ力も学ぶ力も大きい作家だと思われる。日本へ来て、モスクワへ帰ってすぐアメリカへ行った。シーモノフのような作家がアメリカの社会生活を経験するということは非常に有益である。彼自身のため・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・腰にピストルをつけ、カウボーイと馬に騎り、小学生のときからひとの台処で働かねばならなかったアグネスの強壮な体の中を奔放に流れている熱い血がある。一方に子供時代の境遇からアグネスは母親にさえ自分の愛情というものを言葉に出して語る習慣がない。野・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・そして最も強壮な精神だけがこの調和しがたい二つの本源的なものを、調和せしめ得る。 ○文学者への扱いかたのむずかしさの核もここにある。◎ドストイェフスキーの文化上の貢献の意味ふかいものは自己認識の巨大な拡大 である。p.254・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・は極めて愉快で強壮なモラルを語っている。人間・社会関係のあらゆる場合について。〔一九四八年二月〕 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
・・・例えば、余り体力の強壮でない中学の中級生たちが、急に広場に出されて、一定の高さにあげられた民主主義という鉄棒に向って、出来るだけ早くとびついて置かないとまずい、という工合になって、盛にピョンピョンやりはじめたような感じがなくはない。 ジ・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・とことなった強壮な、人類に根ざした美は、外国作家の文学の中にしかあり得ないとするならば、それは、日本という島の国が面している明日の運命について、あまりに単純な見かただと思う。日本のいまのままの現代文学は、歴史の将来のある期間に、とび散ってし・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・ 勤勉な日本の女性たちは、頭と体とを強壮にして、独特に複雑な自分たちの歴史に、一条でも明るい光を、一筋でも合理な生活の道を自分たちの力でつくり出してゆかなければならない。 それぞれの職場によって、そこに働いているひとの気分が違う・・・ 宮本百合子 「働く婦人の歌声」
・・・ 散文 バルザックの散文は強壮である。「幻滅」などの傑作においてはことにそれが感じられる。生活力があふれ、人生の現実に充ち各行が何かを語り、紛糾の深味が次々へと、新鮮な炭酸水のように活気横溢してみなぎっている。・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・由起しげ子のヒューマニズムは、自分で自分のヒューマニティーを劬りつづけて来た生活習慣から、早く強壮に巣立つ必要にせまられている。彼女の、「良識」と評せられる感受性は、現実の中でよごれずにはすまないこと、しかしそれはけがれではないということを・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・その中にも百姓の強壮な肺の臓から発する哄然たる笑声がおりおり高く起こるかと思うとおりおりまた、とある家の垣根に固く繋いである牝牛の長く呼ばわる声が別段に高く聞こえる。廐の臭いや牛乳の臭いや、枯れ草の臭い、及び汗の臭いが相和して、百姓に特有な・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫