・・・――これでも分ったが、警察では、お前の母や山崎のお母さんなどには、お前さん達の息子のしたことはドロ棒したとか、強姦したとかいう罪とちがって何も恥かしがることはないと云っていながら、労働者のおかみさん達には、それは世の中で一番恐ろしい罪で、み・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・私には、強姦という極端な言葉さえ思い浮んだ。 けれども、まだまだこれでおしまいでは無かったのである。さらに有終の美一点が附加せられた。まことに痛快とも、小気味よしとも言わんかた無い男であった。玄関まで彼を送って行き、いよいよわかれる時に・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・殺人、放火、強姦、身をふるわせてそれらへあこがれても、何ひとつできなかった。立ちあがって、尻餅ついた。サラリイマンは、また現われて、諦念と怠惰のよさを説く。姉は、母の心配を思え、と愚劣きわまる手紙を寄こす。そろそろと私の狂乱がはじまる。なん・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 私が仮令えば、愛する良人を持って、その愛に対する本能的な純粋さを持ち、希望し、勿論そのために総ての誘惑は可抗的なものであっても、若し泥棒や何かに強姦されでもした場合、単に生理的にでも、同じような亢奮を感じるものと仮定すると、如何に其を・・・ 宮本百合子 「無題(三)」
出典:青空文庫