・・・「当代の文士は商賈の間に没頭せり」と書いた Porto-Riche は、実にわれを欺かずである。 ピエエル・オオビュルナンは三十六歳になっている。鬚を綺麗に剃っている。指の爪と斬髪頭とに特別の手入をしている。衣服は第一流の裁縫師に拵えさ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ 世界のブルジョアどもも、マクシム・ゴーリキーが当代のプロレタリア作家の真摯な長老であり、優れた作家であることは認める。しかし、彼のすべての芸術的天分、プロレタリア解放への永い年月の実践を、最も効果的に国際的に輝かしく未来に向って意味を・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 文学作品の本質は、この文化勲章の場合のように文学と当代の文化政策との関係の中に反映されるばかりでなく、小説が現実を反映し自然また現実へも照り返してゆく本質を持っているということは、文学自体の発展の問題の中にも、歴史の一定の時期には微妙・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ヒューマニズムを日夜論じる当代日本の職業的知識代表者と、一般の勤労的知識人との間に、その形は極めて捕捉しがたい、だがはっきりと感じられる生活気分の疎隔がヒューマニズムの論をめぐっていつしか生じはじめたのであった。「知識階級は飽くまで知識・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・「月給七十円、べん当代30銭 足代が出るから助ります 朝出るとき一円ぐらいもって行ったって足が出ますからね そうすると書き出しで貰うんです」 一二年先へ先へと見とおしをつけなけりゃ困りますからね、真剣ですよ。 三千円ぐらいなら出・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
・・・農民作家としての和田伝にしろ、伊藤永之介にしろ、真の農民の生活的現実をその文学に生かすには、謂わばあまりに当代の作家らしさを身につけすぎた人々であり、創作態度にはやはり或る観念化がつきまとった。これらの作家は人間が如何なる条件に存在するかと・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・彼が偉大な作家であったに拘らず、当代の人々に完全に評価され得なかったのは、彼が精神的な指導者でなかったからである。」「彼は彼の時代を動かしていた社会主義運動を少しも理解しなかった。」そして、ブランデスは「次第に人々は彼が一定の明白な思想を持・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・りに、自分が女であることの歓喜に包まれて死ねるように生きたいと希う心は激しくつよいのであるが、女としてのよろこび、悲しみの自覚のむこう側にはいつも分担者としての男がなければならず、更に大きい背景として当代の男女を活かし殺す時代というものの歴・・・ 宮本百合子 「未開の花」
・・・老年になってからは、君前で頭巾をかむったまま安座することを免されていた。当代に追腹を願っても許されぬので、六月十九日に小脇差を腹に突き立ててから願書を出して、とうとう許された。加藤安太夫が介錯した。本庄は丹後国の者で、流浪していたのを三斎公・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・元和五年御当代光尚公御誕生遊ばされ、御幼名六丸君と申候。景一は六丸君御附と相成り候。元和七年三斎公御致仕遊ばされ候時、景一も剃髪いたし、宗也と名告り候。寛永九年十二月九日御先代妙解院殿忠利公肥後へ御入国遊ばされ候時、景一も御供いたし候。十八・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
出典:青空文庫