・・・物理的自然現象を限定すべき条件等がすべてこれらの有限なる独立変数にて代表され得るや否やは別問題として、現在の物理学的科学の程度において、従来の方法によりて予報をなし得る範囲は如何なるべきかが当面の問題なり。 先ず従来の既知方則の普遍なる・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ そうした田舎の塵塚に朽ちかかっている祖先の遺物の中から新しい生命の種子を拾い出す事が、為政者や思想家の当面の仕事ではあるまいかという気もする。 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・ 私が宅の洗面所で日常に当面する物理学上の諸問題はまだこのほかにもいくつかある。たとえば湯の温度によって湯げの立ち上がる様子がちがうので、その湯げの立ち方で温度のおおよその見当がつく。これには対流による渦動の問題がある。また半ば満たした・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・しかしこの鸚鵡石で問題になった事はこの場合当面の問題となって再燃しなければならないのである。伊勢の鸚鵡石にしても今の物理学者が実地に出張して研究しようと思えばいくらでも研究する問題はある。そしてその結果はたとえば大講堂や劇場の設・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ これらの研究は化学者物理学者気象学者工学者はもちろん心理学者社会学者等の精鋭を集めてはじめて可能となるような難問題に当面するであろう。決して物ずきな少数学者の気まぐれな研究に任すべき性質のものでなく、消防吏員や保険会社の統計係の手にゆ・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・を衝撃する際に生ずる輻射形の割れ目が衝動の強さに応じて整数的に増加して行く現象のごとき、おそらくある方程式の固有値によって定まるであろうということは、かつて妹沢博士も私に指摘されたことであるが、これは当面の解式を得るまでもなく予想し得られた・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・これは方則の中に含まれた概念の変化であって、それが元来云い表わす当面の事実の変化ではない。ただこの概念の変化によって新しい事実の発見されるごとに一々新しい方則を捻出する事が避けられるのである。 一口に方則とは云うものの物理の方則でも色々・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・その意味からいうと、美々しい女や華奢な男が、天地神明を忘れて、当面の春色に酔って、優越な都会人種をもって任ずる様や、あるいは天下をわがもの顔に得意にふるまうのが羨ましいのです。そうかと云ってこの人造世界に向って猪進する勇気は無論ないです。年・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・日本の開化は自然の波動を描いて甲の波が乙の波を生み乙の波が丙の波を押し出すように内発的に進んでいるかと云うのが当面の問題なのですが残念ながらそう行っていないので困るのです。行っていないと云うのは、先程も申した通り活力節約活力消耗の二大方面に・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
偉大なる過去を背景に持っている国民は勢いのある親分を控えた個人と同じ事で、何かに付けて心丈夫である。あるときはこの自覚のために驕慢の念を起して、当面の務を怠ったり未来の計を忘れて、落ち付いている割に意気地がなくなる恐れはあ・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
出典:青空文庫