・・・ この上記の点で著しく対蹠的のコントラストを形成するものは、日本の剣劇映画における立ち回りの場面である。超自然的スピードをもって白刃と人形とが場面に入り乱れて旋渦のごとく回転する。すると、過去何百年来歌舞伎や講談やの因襲的教条によって確・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・二つの動物の利害の世界は互いに切り合わない二つの層を形成している。従って敵対もなければ友愛もない。 王蛇とガラガラ蛇との二つの世界は重なり合っている。そこで食うか食われるかの二つのうちの一つしか道がない。 この二つの蛇の決闘は指相撲・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ただ相違の点は、一方ではそれ自身には全く無意味な光った線が踊り子の役をつとめているのに、他方では一人一人に生きた個性をもった人間の踊り子が画面ではほとんどその個性を没却して単に無意味な線条を形成している、というだけである。 それだのに、・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・しからばあらゆる大学教授の学殖はすべて同一であるかというに、そういう事は不可能であるが、同じ物理学の中でもそれぞれの方面にそれぞれの権威があってこれらの人々の集団が一つの理想的な権威団を形成すると考えてよい。この権威の財団法人といったような・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
文化の発展には民族というものが基礎とならねばならぬ。民族的統一を形成するものは風俗慣習等種々なる生活様式を挙げることができるであろうが、言語というものがその最大な要素でなければならない。故に優秀な民族は優秀な言語を有つ。ギリシャ語は哲・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・各国家民族が自己を越えて一つの世界的世界を形成すると云うことでなければならない、世界的世界の建築者となると云うことでなければならない。我国体は単に所謂全体主義ではない。皇室は過去未来を包む絶対現在として、皇室が我々の世界の始であり終である。・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・時間空間の形式というものも、自己表現的世界の自己形成の形式として、論理的に考えられるのである。かかる世界は多の自己否定的一として時間的に、一の自己否定的多として空間的であるのである。表現するものが表現せられるものであるということが知るという・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ ゆえに今、一国の政治上よりして天下の形成を観察したらば、所望に応ぜざるものも、はなはだ多からん。農を勧めんとして農業興らず、工商を導かんとして景気ふるわず、あるいは人心頑冥固陋に偏し、また、あるいは活溌軽躁に流るる等にて、これを見て堪・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・社会の歴史の過程で、女がどういう役割を得てきているかといえば、女らしさという観念を女に向ってつくったのは決して女ではなかった。社会の形成の変遷につれ次第に財産とともにそれを相続する家系を重んじはじめた男が、社会と家庭とを支配するものとしての・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・この根本的な疑問を、それぞれの作家が、どんな歴史の見かたで、どんな歴史のなかで、どんな階級の人として、どんな方法で追究し、芸術化して行ったかが、作品形成の一つの過程である。 きょう作品を読む人々は、自分が現代の日本の現実の中に働いて生き・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
出典:青空文庫