・・・――「天下治まり、目出度い御代なれば、かなたこなたにて宝合せをせらるるところ、なんじの知る通り、それがし方には、いまだ誇るべき宝がないによって、汝都へ上り、世に稀なるところの宝が有らば求めて参れ。」与六「へえ」大名「急げ」「へえ」「ええ」「・・・ 芥川竜之介 「野呂松人形」
・・・ いや、余事を申上げまして恐入りますが、唯今私が不束に演じまするお話の中頃に、山中孤家の怪しい婦人が、ちちんぷいぷい御代の御宝と唱えて蝙蝠の印を結ぶ処がありますから、ちょっと申上げておくのであります。 さてこれは小宮山良介という学生・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
さて、明治の御代もいや栄えて、あの時分はおもしろかったなどと、学校時代の事を語り合う事のできる紳士がたくさんできました。 落ち合うごとに、いろいろの話が出ます。何度となく繰り返されます。繰り返しても繰り返しても飽くを知・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・非常な源氏の愛読者で、「これを見れば延喜の御代に住む心地する」といって、明暮に源氏を見ていたというが、きまりきった源氏を六十年もそのように見ていて倦まなかったところは、政元が二十年も飯綱修法を行じていたところと同じようでおもしろい。 長・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・とても彼のように魔法修行に凝って、ただ人ならず振舞いたまうようでは、長くこの世にはおわし果つまじきである、六郎殿に御世を取られては三好に権を張り威を立てらるるばかりである、是非ないことであるから、政元公に生害をすすめ、丹波の源九郎殿を以て管・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・古い一例を挙げれば清和天皇の御代貞観十六年八月二十四日に京師を襲った大風雨では「樹木有名皆吹倒、内外官舎、人民居廬、罕有全者、京邑衆水、暴長七八尺、水流迅激、直衝城下、大小橋梁、無有孑遺、云々」とあって水害もひどかったが風も相当強かったらし・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・街道の並木の松さすがに昔の名残を止むれども道脇の茶店いたずらにあれて鳥毛挟箱の行列見るに由なく、僅かに馬士歌の哀れを止むるのみなるも改まる御代に余命つなぎ得し白髪の媼が囲炉裏のそばに水洟すゝりながら孫玄孫への語り草なるべし。 このあたり・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・只アーサー大王の御代とのみ言い伝えたる世に、ブレトンの一士人がブレトンの一女子に懸想した事がある。その頃の恋はあだには出来ぬ。思う人の唇に燃ゆる情けの息を吹く為には、吾肱をも折らねばならぬ、吾頚をも挫かねばならぬ、時としては吾血潮さえ容赦も・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・その時譲りを受けたるヘンリーは起って十字を額と胸に画して云う「父と子と聖霊の名によって、我れヘンリーはこの大英国の王冠と御代とを、わが正しき血、恵みある神、親愛なる友の援を藉りて襲ぎ受く」と。さて先王の運命は何人も知る者がなかった。その死骸・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・黒けぶり群りたたせ手もすまに吹鑠かせばなだれ落るかね鑠くれば灰とわかれてきはやかにかたまり残る白銀の玉銀の玉をあまたに筥に収れ荷緒かためて馬馳らするしろがねの荷負る馬を牽たてて御貢つかふる御世のみさかえ 採鉱溶鉱より運搬・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫