・・・「お目出とう御座います。先生は御出掛けになりましたか。」「ハイ唯今出た所で、まア御上りなさいまし。」「イヤ今日は急いでいるから上りません。」「あなたもうそんなにお宜しいので御座いますか。この前お目にかかった時と御形容なんどがたいした違い・・・ 正岡子規 「初夢」
御二方には未だ御目に掛った事もございませんが、お催しとしては結構で御座いましょう、只丁度五十歳前後の父を持って居ります自分には、何だか「もうお祝い?」というような心持が致します。〔一九二〇年十月〕・・・ 宮本百合子 「花袋・秋声の祝賀会に際して」
・・・本当にされないように喜んでいるし、私達も如何にも気が軽くなって嬉しゅう御座いますね。 十月三十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より〕 十月三十一日 もう十一月とは何という早さでしょう。去年の十二月から今日まで、殆んど・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・というのは、成功と失敗とに拘わらず、努力に就ての或る標準が予想されていて、その標準以上の努力をした場合でなければ、苦心といえないものだと思うからで御座います。ある一定の効果を挙げる為に当然支払わねばならぬというだけのものを支払った事は、それ・・・ 宮本百合子 「処女作より結婚まで」
・・・決して失望なさる事は御座いません。ただ熱心が大切です。亡くなられた洪川和尚などは、もと儒教をやられて、中年からの修業で御座いましたが、僧になってから三年の間と云うもの丸で一則も通らなかったです。夫で私は業が深くて悟れないのだと云って、毎朝厠・・・ 宮本百合子 「余録(一九二四年より)」
・・・そして親達の思想が世界的に広がっているだけ子供たちまでが世界に対する自分の使命などと云うものも感じているらしゅう御座いますの。自分の存在が例え砂粒のように小さくとも、広く人間のために何かをなさなければならぬという感情を持っています。つまり人・・・ 宮本百合子 「わたくしの大好きなアメリカの少女」
出典:青空文庫