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・・・ 正倉院の御物が公開されると、何十万という人間が猫も杓子も満員の汽車に乗り、電車に乗り、普段は何の某という独立の人格を持った人間であるが、車掌にどなりつけられ、足を踏みつけられ、背中を押され、蛆虫のようにひしめき合い、自分が何某とい・・・
織田作之助
「可能性の文学」
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・・・ 源氏物語りなら『御物の化』でもって―― 陽気な声で千世子は笑った、そして手をのばして篤が今まで読んで居た本の頁をわけもなくめくったりした。「ほんとうにねえ。 今年は今っから海岸にでも行ってたらどうです?「今はま・・・
宮本百合子
「千世子(三)」