・・・そういうことを考えると非常に心痛します。用心を忘れないで下さい。鼻はいかがかしら? 便通は? そう、こんなことも今に追々わかるでしょう。もう夜が明けてしまうかしら、ではおやすみなさい。よく眠るおまじないをどうぞ。 第一信の附録二枚。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・これで一〔中欠〕 この間あなたが書いていらしたように全く生活のための健康であるということを深く会得しているから、自分のことについても、あなたのことについても、出来得る最上をつくしつつ心痛はしないでいるのですが、気になる。気にかかる。これ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・農村の生活で自然の美を謳うより先に懸念されるのはその自然との格闘においてどれだけの収穫をとり得るかという心痛であり、しかも、それは現代の経済段階においては、純粋な労働の成果に関する関心ではなくて、債鬼への直接的連想の苦しみなのである。せんだ・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・二三ヵ月に物価がとび上るインフレーションは、一人一人の経済を破滅させているとともに、婦人の社会的生活、家事の心痛を未曾有に増大させている。先ず、生きなければならない。生きてこその文学である。文学は逆に云えば、最も痛烈な人間的生の発現である。・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・が、なほ子はその間にも心痛の加るのを感じた。半分笑いながら、「このお婆ちゃんは頑固でどうしてもお医者がいやだって仰云るのよ。土屋さん、一つすすめて頂戴」と、なほ子はその客に云った。土屋が帰ると、まさ子は、横になりながら、「一つは・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・ですから、日本の民主主義文学のために意義をもつ『新日本文学』は編集責任者たちにたいへんな努力と心痛とをさせなければならないありさまです。闇紙が日本の民主的文化の重要な新芽をくっているといえると思います。民主的出版の確立のために、用紙の適正な・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ それから後、私のことについて、しばしば父が経験した心痛や悲喜について書かれた手紙というものは一通もない。 父がそれほどとも思われなかった病いで、急に亡くなる前後、私はその側にいることの出来ない事情におかれていた。今から五年前のこと・・・ 宮本百合子 「父の手紙」
・・・ 自分は彼等の愛と、心痛とを明かに感じる事が出来る。然し……心にやましく恥じつつ、仮にも「真」を見出して生きようとする自分の生は続けられない。 考えなければならない。此は空想ではないのだ、自分が呼んだ巨人におびえるのは自分か。 ・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・ 心痛に眉をよせて力説した。「吉岡さんに診て貰いましょう。それからでなくちゃ、わたしたち、どう暮したらいいのか分らないみたいで……わかるでしょう?」「そうしよう」 それにつけても思いおこすという風で重吉は、「――木暮の奴・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ゴーリキイの素朴な的をはずれたこの心痛を、創神派の連中は利用した。彼等のインテリゲンツィア的理論づけ、組立ての外観が、当時に於て一過渡期にいたマクシム・ゴーリキイを一時搦め込んだのである。四十歳になり、世界の作家ゴーリキイになっていた彼は、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫