・・・私は、彼の言葉をそのままに聞いているだけで彼の胸のうちをべつだん何も忖度してはいないのだというところをすぐにも見せなければいけないと思ったから、「その小説は面白そうですね。書いてみたら?」 できるだけ余念なさそうな口調で言って、前方・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・其心中の真面目をも忖度せずして、容易に之に附するに敗徳の名を以てす、無理無法に非ずして何ぞや。百千年来蛮勇狼藉の遺風に籠絡せられて、僅に外面の平穏を装うと雖も、蛮風断じて永久の道に非ず。我輩は其所謂女子敗徳の由て来る所の原因を明にして、文明・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・伐柯其則不遠、自心をもって他人を忖度すべし。 人の心を鎮撫するの要は、その身を安からしむるにあり。安身は安心の術なり。ゆえに今、帝室の保護をもって、私学校を維持せしめてかねてまた学者を優待するの先例を示されたらば、世間にも次第に学問を貴・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・仕事への自覚、誠実、情熱の不足をもって仕事はしておらぬ、そういう表現はうけがえぬ、と云われる場合、私はこういう場処で、広い意味では共通なものとして示されているあなたの作家としての公の言葉を、ああこうと忖度する必要は感じません。 しかしな・・・ 宮本百合子 「不必要な誠実論」
・・・として非難するのは、あまりに自己の卑しい心事をもって他を忖度し過ぎると思う。先生は博士制度が世間的にもまた学界のためにも非常に多くの弊害を伴なう事実に対して怒りを感じた。その内にひそむ虚偽、不公平、私情などに対して正義の情熱の燃え上がるのを・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫