・・・然るにその夜突然この快挙に出でたのを見て、わたしは覚えず称揚の声を禁じ得なかったのだ。「何の本だ。」ときくと、「『通鑑』だ。」と唖々子は答えた。「『通鑑』は『綱目』だろう。」「そうさ。『綱目』でもやっとだ。『資治通鑑』が一人・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・片岡鉄兵の「綾里村快挙録」などは、歴史のなかにおける個人の関係を個人の自然主義風な本能的なものからのみ見ず、社会において彼等の日々の生活がおかれているその現実の諸相からの反映、又それへの主観的な働きかけの歴史性において、歴史を描こうとした小・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・から転じて「綾里村快挙録」を、細田民樹は大衆的作家の傾向を持ちつつ「真理の春」を、宮本百合子は人道主義的なリアリズムの道を、新しい段階に踏み出した。 興味あることには、この時代の旺な脈動が、例えば上司小剣、島崎藤村、或は山本有三、広津和・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・世間は向さんの快挙を見て、それからは誤訳者と云えば私、私と云えば誤訳者、誤訳書と云えばファウスト、ファウストと云えば誤訳書と云うことにしている。私はこれから向さんにもその外の人にも沢山教を受けることであろう。私はどんな書物にも誤はあるものだ・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫