・・・わたしはとうとう思い通り、男の命は取らずとも、女を手に入れる事は出来たのです。 男の命は取らずとも、――そうです。わたしはその上にも、男を殺すつもりはなかったのです。所が泣き伏した女を後に、藪の外へ逃げようとすると、女は突然わたしの腕へ・・・ 芥川竜之介 「藪の中」
・・・ かくのごとく予期せられたる書斎は二千円の費用にてまずまず思い通りに落成を告げて予期通りの功果を奏したがこれと同時に思い掛けなき障害がまたも主人公の耳辺に起った。なるほど洋琴の音もやみ、犬の声もやみ、鶏の声、鸚鵡の声も案のごとく聞えなく・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・ 内から首を出したのは、思い通りお金であった。 栄蔵は一寸まごついた様に、古ぼけた茶の中折れを頭からつまみ下した。「おやまあ、これはこれは御珍らしい。 さあ、どうぞ、お上んなすって。と、栄蔵の手から軽い、すべっと・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・と云うたしかな頼もしい信仰に、わしは、思い通りの仕事を産んだ。 お事のお云いやった神の奇蹟の現わるるのを信じ得ぬわしは待ちこがれて居るのじゃ。 王のお言葉はこれだけでございます。 そしてこれをさしあげる様にとの事でございます。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫