・・・同じように白い息をはきはき、大勢の男や女が勤めへ向って急ぎ足で歩いている。 今朝は、いつもと違って郵電省の立派な入口に、幾条もの赤旗が飾られている。勢いよく走ってくる電車の屋根に、赤い小旗がヒラヒラしている。 どの女も、今日はどこや・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・ ミーチャと別れたお母さんは、急ぎ足で木の門を出たところで、隣りに住んでいるタマーラに会った。タマーラと母さんアンナとは、同じ菓子工場で働いている。二人は並んで、頭をつつんだ肩掛の中から白い息をたてながら並木道を歩いた。 ――どう?・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
・・・ところへ大層急ぎ足で西の方から歩行て来るのはわずか二人の武者で、いずれも旅行の体だ。 一人は五十前後だろう、鬼髯が徒党を組んで左右へ立ち別かれ、眼の玉が金壺の内ぐるわに楯籠り、眉が八文字に陣を取り、唇が大土堤を厚く築いた体、それに身長が・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫