・・・さればこそ、武士はもとより、町人百姓まで、犬侍の禄盗人のと悪口を申して居るようでございます。岡林杢之助殿なども、昨年切腹こそ致されたが、やはり親類縁者が申し合せて、詰腹を斬らせたのだなどと云う風評がございました。またよしんばそうでないにして・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・僕は悪口を云われた蛇笏に甚だ頼もしい感じを抱いた。それは一つには僕自身も傲慢に安んじている所から、同類の思いをなしたのかも知れない。けれどもまだその外にも僕はいろいろの原因から、どうも俳人と云うものは案外世渡りの術に長じた奸物らしい気がして・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・……戸部 畜生……とも子 悪口になったら、許してちょうだい。でも私は心から皆さんにお礼しますわ。私みたいながらがらした物のわからない人間を、皆さんでかわいがってくださったんですもの。お金にはちっともならなかったけれども、私、どこに・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・とでも悪口をいうだろうと思っていたのにこんな風にされると気味が悪い程でした。 二人の足音を聞きつけてか、先生はジムがノックしない前に、戸を開けて下さいました。二人は部屋の中に這入りました。「ジム、あなたはいい子、よく私の言ったことが・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・ でございますが、難有味はなくッても信仰はしませんでも、厭な奴は厭な奴で、私がこう悪口を申しますのを、形は見えませんでもどこかで聞いていて、仇をしやしまいかと思いますほど、気味の悪い爺なんでございまして、」 といいながら日暮際のぱっ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・おはまはじろり悪口いう方を見たがだれだかわからなかった。おとよさんは、どういう心持ちかただだまってうつむいたままわき目も振らずに歩いてる。姉は突然、「おとよさん、家ではおかげで明後日刈り上げになります。隣ではいつ……」「わたしとこで・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・「いや御馳走になって悪口いうなどは、ちと乱暴過ぎるかな。アハハハ」「折角でもないが、君に取って置いたんだから、褒めて食ってくれれば満足だ。沢山あるからそうよろしけば、盛にやってくれ給え」 少し力を入れて話をすると、今の岡村は在京・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・お貞は、今に至るまでも、このことを言い出しては、軽蔑と悪口との種にしているが、この一、二年来不景気の店へ近ごろ最もしげしげ来るお客は青木であったから、陰で悪く言うものの、面と向っては、進まないながらも、十分のお世辞をふり撤いていた。 青・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 今ここに丹羽さんがいませぬから少し丹羽さんの悪口をいいましょう……後でいいつけてはイケマセンよ。丹羽さんが青年会において『基督教青年』という雑誌を出した。それで私のところへもだいぶ送ってきた。そこで私が先日東京へ出ましたときに、先生が・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・と、上を向いて太い鼻息を吹きかけますと、からすはびっくりして、「ばか、ばか。」と、悪口をいって逃げ去ってしまいました。 からすは、ついに牛をおだてそこないました。そして野や、圃の上を飛んできますと、今度は一ぴきの馬が並木につながれて・・・ 小川未明 「馬を殺したからす」
出典:青空文庫