・・・さればこの場合に之を云々するのは、恰も七十の老翁を捉えて生命保険の加入契約を勧告し、或はまた玉の井の女に向って悪疾の有無を問うにもひとしく、あまりにばかばかし過る事である。是亦車中百花園行を拒むもののなかった理由であろう。わたくし達は、又日・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・第五癩病の如き悪疾あれば去ると言う。無稽の甚しきものなり。癩病は伝染性にして神ならぬ身に時としては犯さるゝこともある可し。固より本人の罪に非ず。然るを婦人が不幸にして斯る悪疾に罹るの故を以て離縁とは何事ぞ。夫にして仮初にも人情あらば、離縁は・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 私は、変質者、中毒患者、悪疾な病人等の断種は、実際から見て、この世の悲劇を減らす役に立つと信じる一人である。 結構なことであると思ったのであったが、私の心にはこの事につれ、おのずから又別様の観察が湧いた。有名なイタリーの犯罪心理学・・・ 宮本百合子 「花のたより」
出典:青空文庫