・・・「遂に僕は心を静めて今夜十分眠る方が可い、全く自分の迷だと決心して丸山を下りかけました、すると更に僕を惑乱さする出来事にぶつかりました。というのは上る時は少も気がつかなかったが路傍にある木の枝から人がぶら下っていたことです。驚きましたね・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・われから惑乱している姿は、たえて無い。一方的観察を固持して、死ぬるとも疑わぬ。真理追及の学徒ではなしに、つねに、達観したる師匠である。かならず、お説教をする。最も写実的なる作家西鶴でさえ、かれの物語のあとさきに、安易の人生観を織り込むことを・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・軽い惑乱がはじまっているのだ。お湯に一時間くらい、阿呆みたいにつかっている。風呂から這い出るころには、ぼっとして、幽霊だ。部屋へ帰って来ると、女は、もう寝ている。枕もとに行燈の電気スタンドがついている。」「女は、もう、ねむっているのか?・・・ 太宰治 「雌に就いて」
・・・そうして彼の恐怖心を助長し且つ惑乱した。彼は全く孤立した。 其日は朝から焦げるように暑かった。太十は草刈鎌を研ぎすましてまだ幾らもなって居る西瓜の蔓をみんな掻っ切って畢った。そうして壻の文造に麦藁から蔓から深く堀り込んでうなわせた。文造・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・それらの国々での社会生活は、彼のもちあわせた判断力を惑乱させるほど豊饒でないから。アメリカでシーモノフは、一個のソヴェト市民とし、一個の社会主義作家として、これまでのどこにおいても経験しなかったいくつかの経験にめぐりあわないわけにゆかない。・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫