・・・出版圏内の限られたことと、この際、衆俗の意嚮と趣味を無視することのできない資本主義から、ます/\作品の商品化をよぎなくするものがあるのを考えるからである。 尚お、他方には思想の性質上表現の自由を有しないものがある。是等のことは、人間生活・・・ 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・三七日の夜、親族会議が開かれた席上、四国の田舎から来た軽部の父が、お君の身の振り方につき、お君の籍は金助のところへ戻し、豹一も金助の養子にしてもろたらどんなもんじゃけんと、渋い顔して意見を述べ、お君の意嚮を訊くと、「私でっか。私はどない・・・ 織田作之助 「雨」
・・・両者の意嚮の間には、あまりにもひどい懸隔があるので、母は狼狽した。チベットは、いかになんでも唐突すぎる。母はまず勝治に、その無思慮な希望を放棄してくれるように歎願した。頑として聞かない。チベットへ行くのは僕の年来の理想であって、中学時代に学・・・ 太宰治 「花火」
・・・と私の意向を、うまく言い当てた。 私は苦笑して、その散髪屋のドアを押して中へはいった。私自身では気がつかなかったけれど、よその人から見ると、ずいぶんぼうぼうと髪が伸びて、見苦しく、それだから散髪屋の主人も、私の意向をちゃんと見抜いてしま・・・ 太宰治 「美少女」
・・・四千万の愚物と天下を罵った彼も住家には閉口したと見えて、その愚物の中に当然勘定せらるべき妻君へ向けて委細を報知してその意向を確めた。細君の答に「御申越の借家は二軒共不都合もなき様被存候えば私倫敦へ上り候迄双方共御明け置願度若し又それ迄に取極・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・然るに日本に於ては趣を異にし、男子女子の為めに配偶者を求むるは父母の責任にして、其男女が年頃に達すれば辛苦して之を探索し、長し短し取捨百端、いよ/\是れならばと父母の間に内決して、先ず本人の意向如何を問い、父母の決したる所に異存なしと答えて・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・歴史一般が、今日は重く顧みられているが、それは過去の炬火として今日へ光りをそそぐべきものとして扱われていて、今日の現実の光が過去の現実を明晰にして明日の糧とするという意嚮に立つ面は弱いと思われる。いくつかの文学作品の題材は、過去に求められて・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・最も肉体的表情であって翻訳を必要としないスポーツで日本は世界の最前列に伍していることや、所謂躍進日本の他の一面としての文化紹介を欲する政府当局の意嚮などが、外務省文化事業部へ反響して、先ず国際文化振興会が半官的な組織で成立し、つづいて島崎藤・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・其は彼の作に漲っている深い力強い意向を考えれば解るのだろうと思う。彼の空想の豊饒さの裡には、蒼ざめた果敢なさや、愚痴や只甘い歎息は左様ならを云われている。 Lord Dunsany に次で、現今米国の知識階級に悦ばれているのは、Jo・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・其等の欠点を反省して、より純真な、より高い価値を持った動機に依って、常套打破を試みようとする意向と努力とが含まれて居れば、私も、Unconvention の持つ常套に対する反抗を認めますでしょう。然し、此の一群の人々は、此の標語を振りかざし・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫