・・・ 作家の感性のことについて。感性のことはやはり究極は見かたの問題だし、人を動かす作品の力がただ写実では足りなく、ロマンチックな要素がいるというAさんの見解もロマンチックというだけではずっているし、時間があったら一寸した作家としての経験を・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・即ち行動主義は肉体と機械の発見によって、それらに作用されかつ反作用する個人の感性、智性、意欲の方向と状態を表現することによって近代的人性を啓示する。 小松清氏は、この行動主義文学の理論が多分にニイチェ的なものを含んでいることを承認してい・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・の新鮮な感性の価値を影響に研こうと欲し「女性は文学に死せず」や「皮膚をきたえん」には女性と芸術との厳しく隠微な関係さえとらえられ考えられうたわれている。 永瀬さんが今日の日本の女性の詩人として示している独特な美と力とは、女心が縷々として・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・ このヒューマニズムは、文学を社会的、現実的局面とかたく結ぼうとする意慾、現実では分裂の状態におかれている「知性と感性との統一、背馳している意識と行動とに人間的な統一を与え、すこやかに逞しい人生を発見し、創造しよう」と欲する感情において・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・彼の現実認識のよりどころは個性の感性に置かれているのであったが、その感性そのものも「オフェリア遺文」が計らずも告白している通り統一された具象性を持たないものであった。「言葉というものは、こんがらかそうと思えばいくらだってこんがらかすことが出・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・武士出身の芭蕉が芸術へ精進した気がまえ、支那伝来の文化をぬけてじかに日本の生活が訴えてくる新しい感性の世界を求めた芭蕉の追求の強さ、芭蕉はある時期禅の言葉がどっさり入っているような句も作った。その時代を通過してから芭蕉の直感的な実在表現は、・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 大体日本文学は、その歴史の発端から、風流を文学の芸術性の骨子として、社会生活から或る程度離脱した位置に自身をおいた知性と感性との表現としての伝統をもって来た。日本文学は主情的な文学の特質をもっていたといわれている。その原因には少くとも・・・ 宮本百合子 「生活においての統一」
・・・少なからぬ人にとって、それは当面したさけ難い困難・必要として全力を傾けて克服したのだが、その経験は感性的に経験されたにとどまったであろう。感性的経験は時間に洗いながされる。それだからこそ、勇士と生れついていないすべてのおとなしい平凡な人々さ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・日本の近代精神において、ヒューマニズムがいわれる場合、ほとんど常に、それが感性的な面のみの跳梁に終るという現象は、それ自体日本の近代精神の非近代性を語っていると思います。日本の精神は市民社会を知らず、自分一個の存在の社会的脊骨を自身のうちに・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・若々しさが、直接に、その若い感性にとっては一つの漠然たる苦悩として感じられている顔つきであった。 この表情は、これほど真率に、凝集して現れているのを見たことは稀だとしても、今日の日本の青年たちの毎日のうちに、一度二度は必ず顔面を掠めて通・・・ 宮本百合子 「その源」
出典:青空文庫