・・・「よろしゅうござりまする、しかと向後は慎むでございましょう。」「おお、二度と過をせぬのが、何よりじゃ。」 佐渡守は、吐き出すように、こう云った。「その儀は、宇左衛門、一命にかけて、承知仕りました。」 彼は、眼に涙をためな・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ 宗吉は、お千さんの、湯にだけは密と行っても、床屋へは行けもせず、呼ぶのも慎むべき境遇を頷きながら、お妾に剃刀を借りて戻る。……「おっと!……ついでに金盥……気を利かして、気を利かして。」 この間に、いま何か話があったと見える。・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・と言って非難されたことがあるので、今度もこうした名前は慎むほうがよいであろうと思う。いろいろ考えた末に結局平凡な、表題のとおりの名前を選むことになってしまったわけである。全くむつかしいものである。 この集の内容は例によって主として身辺瑣・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・風俗を美にせんとするには、人の智識聞見を博くし、心を脩め身を慎むの義を知らしめざるべからず。けだし我が輩の所見にて、開知・修身の道は、洋学によらざれば、他に求むべき方便を知らず。歴史を読みて、その実証を見るべし。世の士君子、もしこの順席を錯・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・家庭の教育、謹むべきなり。 然るに今、この大切なる仕事を引受けたる世間の父母を見るに、かつて子を家庭に教育するの道を稽古したることなく、甚だしきは家庭教育の大切なることだに知らずして甚だ容易なるものと心得、毎に心の向き次第、その時その時・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・内行を慎むが如き、非常の辛苦にあらず。在昔はこれを戒むるの趣意、単にその人の一身にありしことなれども、今は則ち一国の栄辱に関して、更に重大の事とはなりたり。身を思い国を思う者は、深く自ら省みる所なかるべからざるなり。「日本男子論」の一編・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・はなはだ慎むべきものにこそ。 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・ 人が、陥り易い多くの盲目と、忘我とを地獄の門として居る為に、性慾が如何に恐るべき謹むべきものであるかと云うことは、昔の賢者の云った通りである。 然し、本然が暗と罪と堕落なのであろうか。此処に来ると、自分は長与氏、又は、トルストイの・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
出典:青空文庫