・・・私が妹に薄くしてもと考えるのは、その金で兄の手不足を補い、どうかしてあの新しい農家を独立させたかったからで。 言い忘れたが、最初私は太郎に二反七畝ほどの田をあてがった。そこから十八俵の米が取れた。もっとも、太郎から手紙で書いてよこしたよ・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ 玄米一石の生産費自作農二五円八七銭 小作農二八円七一銭 現在の農村は事変以来二割近い手不足で甚だ困難している。従って老人、女子、子供は一層農村で大切な労働力となって来た。昨年は一部落当に老人二人婦人一人半子供十人半が平・・・ 宮本百合子 「新しき大地」
・・・その地方の男の手不足のひどさが語られているとともに、バスの車掌さんではなく、運転手となった娘さんたちは、どんな一生懸命な責任を負った心持でハンドルにつかまっていることだろう。新らしい仕事でひどく気づかれしながらも、よろこびや誇りは秘かに感じ・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・ 東京から五六十里北の者だったのでしたが、何にしろ死にそうだと云うのだからと云って不自由を知って帰してやりましたので、只さえ手不足だった所へ又斯うで、手足の五人分も欲しがりながら彼女は昨日一日疲れる事を知らない機械の様に働きました。・・・ 宮本百合子 「二月七日」
出典:青空文庫