・・・手洗いの湯をすすめに来た母はほとんど手柄顔にこう云った。自分も安心をしなかったにしろ、安心に近い寛ぎを感じた。それには粘液の多少のほかにも、多加志の顔色や挙動などのふだんに変らないせいもあったのだった。「あしたは多分熱が下るでしょう。幸い吐・・・ 芥川竜之介 「子供の病気」
・・・あの泣きもし得ないでおろおろしている子供が、皆んなから手柄顔に名指されるだろう。配達夫は怒りにまかせて、何の抵抗力もないあの子の襟がみでも取ってこづきまわすだろう。あの子供は突然死にそうな声を出して泣きだす。まわりの人々はいい気持ちそうにそ・・・ 有島武郎 「卑怯者」
・・・ 蝮の首を焼火箸で突いたほどの祟はあるだろう、と腹じゃあ慄然いたしまして、爺はどうしたと聞きましたら、と手柄顔に、お米は胸がすいたように申しましたが。 なるほど、その後はしばらくこの辺へは立廻りません様子。しばらく影を見ませんか・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・とうとう払暁まで掛って九匹を取上げたと、猫のお産の話を事細やかに説明して、「お産の取上爺となったのは弁慶と僕だけだろう。が、卿の君よりは猫の方がよっぽど豪かった、」と手柄顔をした。それから以来習慣が付き、子を産む度毎に必ず助産のお役を勤め、・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・しゃぼんを一銭まけさせたと手柄顔に話す。 帰る時にミノルカが生んだのだと云う七面鳥の卵ほど大きい卵を二つくれた。東京ではとうてい見たくとも見られるものではない。大いそぎで勘定をすませたお繁婆は私のあとから追掛けて来て、「御邪魔に・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫