・・・いろいろ打ち合わせも順調に運び、わざとばかりの結納の品も記念に取りかわしました。もはや期日の打ち合わせをするほどにこの話は進んできています。とうさんのことですから、いっさい簡素を旨とするつもりです。生活を変えるとは言っても、加藤さんに家へ来・・・ 島崎藤村 「再婚について」
・・・という題の失恋小説を連載する事になって、その原稿発送やら、電報の打合せやらで、いっそう郵便局へ行く度数が頻繁になった。 れいの無筆の親と知合いになったのは、その郵便局のベンチに於いてである。 郵便局は、いつもなかなか混んでいる。私は・・・ 太宰治 「親という二字」
・・・その日、井伏さんと檀君と、ふたりさきに出掛けて、地平は、用事のために一足おくれて、その実兄の宿へ行く途中、荻窪の私の家へほんの鳥渡、立ち寄って、私の就職のことで二、三、打ち合せてから、井伏さんたちのあとを追って荻窪の駅へ、私も駅まで見送って・・・ 太宰治 「喝采」
・・・気まずい事の起らぬうちに早く引き上げましょう、と私は北さんと前もって打ち合せをして置いたのである。さしたる失敗も無く、謂わば和気藹々裡に、私たちはハイヤアに乗った。北さん、中畑さん、私、それから母。嫂や英治さんの優しいすすめに依って母も、私・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・とにかく、あした電話で打ち合せましょう。」「北さんは?」「あした東京へ帰ります。」「たいへんですね。去年の夏も、北さんは、すぐにお帰りになったし、ことしこそ、青森の近くの温泉にでも御案内しようと、私たちは準備して来たのですけど。・・・ 太宰治 「故郷」
・・・白石は、まえもってこの人たちと打ち合せをして置いて、当日は朝はやくから切支丹屋敷に出掛けて行き、奉行たちと共に、シロオテの携えて来た法衣や貨幣や刀やその他の品物を検査し、また、長崎からシロオテに附き添うて来た通事たちを招き寄せて、たとえばい・・・ 太宰治 「地球図」
・・・「餅作るならの広葉を打ち合わせ」という付け句を「親と碁をうつ昼のつれづれ」という前句に付けている。座敷の父とむすこに対して台所の母と嫁を出した並行であり、碁石打つ手と柏の葉を並べる手がオーバーラップするのである。この二つの場面のモンタージュ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ さすがそこは芝居であるからこのミルクホールの店先を肝心の夕刊嬢が丁度そのときまるで打合せておいたように通りかかる。それを見かけた田代はコーヒーの勘定などはあとでいいからすぐ駆出せばよいのにその勘定でまごまごしてなかなか追っかけない。こ・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ いっしょに連れて行った二人を老師に引き合せて、巡錫の打ち合せなどを済ました後、しばらく雑談をしているうちに、老師から縁切寺の由来やら、時頼夫人の開基の事やら、どうしてそんな尼寺へ住むようになった訳やら、いろいろ聞いた。帰る時には玄関ま・・・ 夏目漱石 「初秋の一日」
・・・ 一郎がそこで両手をぴしゃんと打ち合わせて、だあ、と言いました。 するとにわかに七匹ともまるでたてがみをそろえてかけ出したのです。「うまあい。」嘉助ははね上がって走りました。けれどもそれはどうも競馬にはならないのでした。 第・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
出典:青空文庫