・・・ と、ひどく弾んで、承諾してしまったのだから、世話はない。 普通なら、横面のひとつも撲りつけてから、「――お前のような奴の片棒をかつぐのは、もう御免だよ」 と、断るところだ。それを、そんな風にあっさり引き受けてしまったのは、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・それでいったいどんな文句の葉書が皆さんのところへ送られたのか、じつは私としてはまったく突如に皆さんの御承諾の御返事をいただいたような始末でして……まったく発起人という名義を貸しただけでして……発起人としてかようなことを申しあげるのは誠に失礼・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・そして喜んで私塾設立の儀を承諾した、さなきだにかれは自分で何らの仕事をか企てんとしていて言い出しにくく思っていたところであるから。「杉の杜の髯」の予言のあたったのはここまでである。さてこの以後が「髯」の予言しのこした豊吉の運命である。・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・なにしろ御承諾を願いたいものだ。」「やりましょうとも。王侯貴人の像をイジくるよりか、それはわが党の『加と男』のために、じゃアない、ためにじゃアない、「加と男」をだ、……をだをだ、……。だから承知しましたよ。承知の助だ。加と公の半身像なん・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・大庭の家ではそれは道理なことだと承諾してやった。それからかれこれ二月ばかり経つと、今度は生垣を三尺ばかり開放さしてくれろ、そうすれば一々御門へ迂廻らんでも済むからと頼みに来た。これには大庭家でも大分苦情があった、殊にお徳は盗棒の入口を造える・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ 十五分ばかりして、彼は、二人の息子を馭者にして、ペーターが、二台の橇を聯隊へやることを承諾さした。「よし、それじゃ、すぐ支度をして聯隊へ行ってくれ。」彼は云った。「一寸。」とイワンが云った。「金をさきに貰いてえんだ。」 そ・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・ この話が川越の加藤大一郎さんととうさんとの間にまとまり先方の承諾を得たのは、ことしの七月のころでした。大一郎さんはそのために一度東京へ出て来てくれました。いろいろ打ち合わせも順調に運び、わざとばかりの結納の品も記念に取りかわしました。・・・ 島崎藤村 「再婚について」
・・・後始末をする事に致しますから、警察沙汰にするのは、もう一日お待ちになって下さいまし、明日そちらさまへ、私のほうからお伺い致します、と申し上げまして、その中野のお店の場所をくわしく聞き、無理にお二人にご承諾をねがいまして、その夜はそのままでひ・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・大して惚れていないのに、せんだって、真面目に求婚して、承諾されました。その帰り可笑しく、噴き出している最中、――いや、どんな気持だったかわかりません。ぼくはいつも真面目でいたいと思っているのです。東京に帰って文学三昧に耽りたくてたまりません・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・すなわち理法によって他の承諾を強要する。民族的反感からは信用したくない人でも、論理の前には屈伏しなければならない事を知っているから。」こう云ったニーチェのにがにがしい言葉が今更に強く吾々の耳に響くように思われる。 彼の学校成績はあまりよ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
出典:青空文庫