・・・芸術は一つの技術である。技術は何によらず練習するより他に上達する道はない。一つ書くごとに成長してゆくものである。ロダンなどは絶え間なく練習していたということである。 以上を常に忘れず心に止め、固く守って気長く根気強く努力したなら・・・ 倉田百三 「芸術上の心得」
・・・それも製作技術の智慧からではあるが、丸太を組み、割竹を編み、紙を貼り、色を傅けて、インチキ大仏のその眼の孔から安房上総まで見ゆるほどなのを江戸に作ったことがある。そういう質の智慧のある人であるから、今ここにおいて行詰まるような意気地無しでは・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・外国でも遠くはデカメロンあたりから発して、近世では、メリメ、モオパスサン、ドオデエ、チェホフなんて、まあいろいろあるだろうが、日本では殊にこの技術が昔から発達していた国で、何々物語というもののほとんど全部がそれであったし、また近世では西鶴な・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・T君は、ダットサン運転の技術を体得していたので、そのトラックの運転台に乗っていた。私は、人ごみのうしろから、ぼんやり眺めていた。「兄さん」いつの間にか私の傍に来ていた妹が、そう小声で言って、私の背中を強く押した。気を取り直して、見ると、・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・かなりテヒニークの六ヶしいブラームスのものでも鮮やかに弾きこなすそうである。技術ばかりでなくて相当な理解をもった芸術的の演奏が出来るらしい。 それから、子供の時に唱歌をやったと同じように、時々ピアノの鍵盤の前に坐って即興的のファンタジー・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・この技術によって観客の目は対象物の直前に肉薄する。従って顔の小じわの一つ一つ、その筋肉の微細な運動までが異常に郭大される。指先の神経的な微動でもそれが恐ろしくこくめいに強調されて見える。それだから大写しの顔や手は、決して「芝居」をしてはいけ・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・その上に意匠の技術を無視した色のわるいペンキ塗の広告がベタベタ貼ってある。竹の葉の汚らしく枯れた松飾りの間からは、家の軒ごとに各自勝手の幟や旗が出してあるのが、いずれも紫とか赤とかいう極めて単純な色ばかりを択んでいる。 自分は憤然として・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・現今西洋でも日本でもやかましく騒いでいる裸体画などと云うものは全くこの局部の理想を生涯の目的として苦心しているのであります。技術としてはむずかしいかも知れぬが文芸家の理想としては、ほんの一部分に過ぎんのであります。人によると裸体画さえかけば・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・しかし立派な技術を持ってさえいれば、変人でも頑固でも人が頼むだろうと思いました。佐々木東洋という医者があります。この医者が大へんな変人で、患者をまるで玩具か人形のように扱う、愛嬌のない人です。それではやらないかといえば不思議なほどはやって、・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・科学、技術、経済の発達の結果、今日、各国家民族が緊密なる一つの世界的空間に入ったのである。之を解決する途は、各自が世界史的使命を自覚して、各自が何処までも自己に即しながら而も自己を越えて、一つの世界的世界を構成するの外にない。私が現代を各国・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
出典:青空文庫