・・・が、ただ先哲、孫呉空は、ごまむしと変じて、夫人の腹中に飛び込んで、痛快にその臓腑を抉るのである。末法の凡俳は、咽喉までも行かない、唇に触れたら酸漿の核ともならず、溶けちまおう。 ついでに、おかしな話がある。六七人と銑吉がこの近所の名代の・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・第一爪をはがす鑿と、鑿を敲く槌と、それから爪を削る小刀と、爪を刳る妙なものと、それから……」「それから何があるかい」「それから変なものが、まだいろいろあるんだよ。第一馬のおとなしいには驚ろいた。あんなに、削られても、刳られても平気で・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・僕なんか三十枚ぐらいのものなら一晩で書くぞという意味の厭がらせを云って、妻の作家の苦しい心持を抉るようにする。しかも、良人である作家は、その時もう創作が出来ないような生活の気分に陥っているのが実際の有様であったというようないきさつが、田村氏・・・ 宮本百合子 「夫婦が作家である場合」
出典:青空文庫