・・・いつも年末に催されるという滝田君の招宴にも一度席末に列しただけである。それは確震災の前年、――大正十一年の年末だったであろう。僕はその夜田山花袋、高島米峰、大町桂月の諸氏に初めてお目にかかることが出来た。 ◇ 僕は又滝・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎君」
・・・これは数年前、故和田雲邨翁が新収稀覯書の展覧を兼ねて少数知人を招宴した時の食卓での対談であった。これが鴎外と款語した最後で、それから後は懸違って一度も会わなかったから、この一場の偶談は殊に感慨が深い。 私が鴎外と最も親しくしたのは小・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ 起きてから、彼女は断った招宴について一言も云わなかった。けれども彼は、彼女の寡言の奥に、押し籠められている感情を察し抜いた。その一層明らかな証拠には、いつも活溌に眼を耀かせ、彼を見るとすぐにも悪戯の種が欲しいと云うような顔をする彼女が・・・ 宮本百合子 「或る日」
出典:青空文庫