・・・おはぎでも拵えるように、一寸いたずらしてと表現する娘さんへよりも、私としてはデカルトにさかのぼって近代フランス文学を研究すると云っているその語りての、今日現実のものとしている文学への感覚からショックをうけた。 今日の日本では所謂知的な読・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・ びっくりさせてやるからと、腕によりかけて、いろんなものを拵えるんだ。 何日もかかって、その仕度が出来上る。婦人労働者たちは、デモに着て出る服の手入れでもして、四月三十日になると、モスクワ全市の食糧品販売店では、火酒、ブドー酒、ビール、・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
・・・母親や娘は、彼女等の手芸、刺繍、パッチ・ウワーク等を応用して、暇々に、新たな壁紙に似合う垂帳、クッション、足台等を拵える。 公共建築や宮殿のようなものは例外として、中流の、先ず心の楽しさを得たい為に、居心地よい家を作ろうとするような者は・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・ なほ子は台所へ出て行き、冷肉を拵える鶏を注文させた。料理台の傍に立っている女中に、「晩に上るもの、何か拵えた?」と訊くと、「いいえ、何も致しませんでした。召上りたくないと仰云いましたから……」 雇人と、あとは小さい・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・だから文学というものでも、ここにいらっしゃる以上は身に近いものとしてお考えになっていらっしゃる方でしょうけれども、或る人達が中心になって拵えるものを文学と思っている今までの考え方をやめて、やはり生活というものに手を入れて掬い上げたものが文学・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・「前略、万葉古義を拵えることも勿論立派な仕事と思いますが、而し民衆はそういうものよりも、もっと生活に喰いこんだものを求めているのではないでしょうか。略」 ぼんやりした表現で書かれていたけれども、私の印象にのこった。『文学界』の座談会で小・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・そんな時間を拵えるとすれば、それは烟草休の暇をそれに使う外はない。 烟草休には誰も不愉快な事をしたくはない。応募脚本なんぞには、面白いと思って読むようなものは、十読んで一つもあるかないかである。 それを読もうと受け合ったのは、頼まれ・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・近所のものが誰の住まいになるのだと云って聞けば、松平の家中の士で、宮重久右衛門と云う人が隠居所を拵えるのだと云うことである。なる程宮重の家の離座敷と云っても好いような明家で、只台所だけが、小さいながらに、別に出来ていたのである。近所のものが・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫