・・・一言にすれば、虚飾を排することだ。しかも、これを拒否する自由は、誰にもある。 やはり、芸術に於てもそうだ。複雑なる主義に、たとえば、政治に、経済に、既成の哲学に、依拠し、隷属しなければならぬとするごときは迷蒙である。こうしたことによって・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・ それで、この方法を真に有効ならしむるには、むしろあらゆる独断、偏見、臆説をも初めから排する事なく、なるべくちがったものをことごとくひとまず取り入れて、すべての可能性を一つ一つ吟味しなければならない。軽々しい否定は早急な肯定よりもはるか・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・第一日本では政治上の人民戦線が結ばれるに困難な事情があり、文化的な面から見ても、ヒューマニズムを提唱している人々自身の中に、左翼的なものを排する気分、その気分の合理化としてヒューマニズムが取上げられた傾向もあった。ヒューマニズムに於ける現実・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムの諸相」
・・・もとより僕は画家が想念の表現に努めることを排するのではないが、その想念がかくのごとく幼稚で概念的で、何らの深い感動や直観に根ざしていない以上は、むしろ持たぬ方がいいと思う。椿貞雄氏の『石橋のある景色』や、片多徳郎氏の『郊外にて』や、山脇信徳・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・彼は虚偽を排する主義を奉じているが、それを徹底させるためにも浅い体験はただ浅いままに表現すべきであった。一切の借り物を捨て、自分の直視にのみ即して考えてみるべきであった。――こう考えている内に、彼の感想の内から二つの語が自分の批評の証明とし・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫