・・・しかしその半面の随伴現象としていわゆる骨董趣味を邪道視し極端に排斥し、ついには巧利を度外視した純知識慾に基づく科学的研究を軽んずるような事があってはならぬと思う。直接の応用は眼前の知識の範囲を出づる事は出来ない。従ってこれには一定の限界があ・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・中でいちばん年とった純下町型のYどんは時々露骨に性的な話題を持ち出して若い文学少年たちから憤慨排斥された。夜の三時ごろまでも表の人通りが絶えず、カンテラの油煙が渦巻いていた。明け方近くなっても時々郵便局の馬車がけたたましい鈴の音を立てて三原・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・ ついでながら、断片的な通俗科学的読み物は排斥すべきものだというような事を新聞紙上で論じた人が近ごろあったようであるが、あれは少し偏頗な僻論であると私には思われた。どんな瑣末な科学的知識でも、その背後には必ずいろいろな既知の方則が普遍的・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・このような障害の根を絶つためには、一般の世間が平素から科学知識の水準をずっと高めてにせ物と本物とを鑑別する目を肥やしそして本物を尊重しにせ物を排斥するような風習を養うのがいちばん近道で有効ではないかと思ってみた。そういう事が不可能ではない事・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・日頃田崎と仲のよくない御飯焚のお悦は、田舎出の迷信家で、顔の色を変えてまで、お狐さまを殺すはお家の為めに不吉である事を説き、田崎は主命の尊さ、御飯焚風情の嘴を入れる処でないと一言の下に排斥して仕舞った。お悦は真赤な頬をふくらし乳母も共々、私・・・ 永井荷風 「狐」
・・・崇高の感がないから排斥すべしと云うのは、文学と崇高の感と内容において全部一致した暁でなければ云えぬ事である。一九に点を与えるときには滑稽が下卑であるから五十とか、諧謔が自然だから九十とかきめなければならぬ。メリメのカルメンはカルメンと云う女・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・いやしくも理想を排斥しては自己の生活を否定するのと同様の矛盾に陥りますから、私はけっしてそう云う方面の論者として諸君に誤解されたくない。ただ私の御注意申し上げたいのは輓近科学上の発見と、科学の進歩に伴って起る周密公平の観察のために道徳界にお・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・これを逆にいうと、そういう絵を排斥しているのが文展である。こういう訳であるから、それが一列一帯にチャンと御手際だけは出来ておらないといけない。御手際が出来てない物は皆落第する――のですかどうか分らないが、とにかくそういうことを私は文展におい・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・よし存在してもすぐ他から排斥され踏み潰されるにきまっているからです。私はあなたがたが自由にあらん事を切望するものであります。同時にあなたがたが義務というものを納得せられん事を願ってやまないのであります。こういう意味において、私は個人主義だと・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・真実在を論ずるものは、形而上学的として排斥せられてしまった。 然らば真実在とは如何なるものであろうか。それは先ずそれ自身に於てあるもの、自己の存在に他の何物をも要せないものでなければならない。しかし真にそれ自身によってあるものは、自己自・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
出典:青空文庫