・・・部屋の具合とか窓の外の海とか云うもので、やっとそう云う推定を下しては見たものの、事によると、もっと平凡な場所かも知れないと云う懸念がある。いや、やっぱり船のサルーンかな。それでなくては、こう揺れる筈がない。僕は木下杢太郎君ではないから、何サ・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・これらの偉大な学者や実際運動家は、その稀有な想像力と統合力とをもって、資本主義生活の経緯の那辺にあるかを、力強く推定した点においては、実に驚嘆に堪えないものがある。しかしながら彼らの育ち上がった環境は明らかに第四階級のそれではない。ブルジョ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・井村の推定は間違っていなかった。それは、恐ろしく巨大な鉱石の塊だった。「あんたは、自分の立てた手柄まで、上の人に取られてしまうんだね。」 タエは、小声でよって来た。カンテラが、無愛想に渋り切った井村の顔に暗い陰影を投げた。彼女は、ギ・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・そうすればただうっかり無意味で入れたのではない。心あって自分にくれたのである。そう推定したってむりとは言えまい。自分は袖を翳して何だかほろりとなった。 しかし自分は藤さんについてはついにこれだけしか知らないのである。ああして不意に帰った・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・と告白し、「私はみんなの言うことをそっくりそのまま信じたのではないが、証人の数の多いことは、その言うところが正しいと推定せしむるに有力であることを思わざるを得なかった。聖グレゴリーも、善行について同様な意見であることを述べているようじゃ。」・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・僕は暗いうちから起きて、上野駅へ行き、改札口の前にうずくまって、君もいよいよ戦地へ行くことになったのだとひそかに推定していた。遠慮深くて律義な君が、こんな電報を僕に打って寄こすのは、よほどの事であろう。戦地へ出かける途中、上野駅に下車して、・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・従ってほんとうに科学的な推定を下すということはほとんど望み難いことである。ただできうる唯一の方法としては、有るだけの材料から、科学的に合理的な一つの「可能性」を指摘するに過ぎない。もっともこの可能性が非常に多様であれば、その中の二三を指摘し・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・かつて何人も実験せずまた将来も実現する事のありそうもない抽象的な条件の下に行なわるべき現象の推移を、既知の方則から推定し、それからさらに他の方則に到達するような筋道は、あるいは小説以上に架空的なものとも言われぬ事はない。ただ小説の場合には方・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ところが必要な鎖の輪が欠けているために実際は関係のよくわからぬ事件が、史家の推定や臆測で結びつけられる場合が多いであろう。それでいわゆる歴史と称するものは、ほんとうの意味での記録としてずいぶんたより少ないものと考えられるのである。事がらがご・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 震源とは何を意味するか、また現在震源を推定する方法が如何なるものであるかというような事を多少でも心得ている人にとっては、新聞紙のいわゆる震源争いなるものが如何に無意味なものであるかを了解する事が出来るはずである。 震源の所在を知り・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
出典:青空文庫