・・・……あまりといえば、おんぼろで、伺いたくても伺えなし、伺いたくて堪らないし、損料を借りて来ましたから、肌のものまで。……ちょっと、それにお恥かしいんだけど、電車賃……」 お妻が、段を下りて、廊下へ来た。と、いまの身なりも、損料か・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 当日は、小僧に一包み衣類を背負わして――損料です。黒絽の五つ紋に、おなじく鉄無地のべんべらもの、くたぶれた帯などですが、足袋まで身なりが出来ました。そうは資本が続かないからと、政治家は、セルの着流しです。そのかわり、この方は山高帽子で・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・それに、借着をすれば、手間がはぶけて損料を払うだけでモーニングだとか紋附だとか――つまり実存主義は、戦後の混乱と不安の中にあるフランスの一つの思想的必然であります。このような文学こそ、新しい近代小説への道に努力せんとしている僕らのジェネレー・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・ 裁縫師の女房から本が借りられなくなると、ゴーリキイは若いのらくら男女の寄り合い場となっている街のパン屋で、副業に春画を売ったり猥褻な詩を書いてやったり、貸本をしたりしている店から、一冊一哥の損料で豆本を借り出した。そこの本はどの本も下・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫