・・・少くも利権割取を政治家の余得として一進一退を総て金に換えて怪まない今の政界にあっては沼南は実に鶏群の一鶴であった。 が、清廉を看板にし売物にする結果が貧乏をミエにする奇妙な虚飾があった。無論、沼南は金持ではなかった。が、その社会的位置に・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・政治家肌がこういう傾向になったのもまた間接に伊井公侯の文明尊重に負うているので、当時の政界の領袖は朝野を通じて皆文芸的理解に富んでいた。庄屋様上りの百姓政治家は帝都の中央では対手にされなかった。 由来革命の鍵はイツデモ門外漢の手に握られ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・父は代議士にいちど、それから貴族院にも出たが、べつだん中央の政界に於いて活躍したという話も聞かない。この父は、ひどく大きい家を建てた。風情も何も無い、ただ大きいのである。間数が三十ちかくもあるであろう。それも十畳二十畳という部屋が多い。おそ・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
四十年来の暑さだ、と、中央気象台では発表した。四十年に一度の暑さの中を政界の巨星連が右往左往した。 スペインや、イタリーでは、ナポレオンの方を向いて、政界が退進した。 赤石山の、てっぺんへ、寝台へ寝たまま持ち上げら・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・かの人々が知識人として今日の社会に対している良心のあらわれであるのだけれど、その半面では、モーロアの本質がつまりダラディエやレイノーとそう大して違ったものでもないこと、それだからこそ現象の説明は皮相な政界内幕の域を脱し得ていないこと、従って・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・其権利を獲得した事に依って、政界に新鮮が与えられ、よりよき暗示を施政者に与え得るが故に、要求されなければならないものではございますまいか。 女性の自覚は、男性の所有すると同様のものを所有しようとする――一面から申せば何の改造も加えられな・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・そんな風な経済記事が扱われ、政治にしろ、そのときの大臣連の出世物語、政界内幕話という工合であった。戦争がはじまったとき、すべての浪花節、すべての映画、すべての流行唄、いわゆる大衆娯楽の全部が戦争宣伝に動員された。大衆文学・大衆小説はその先頭・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・この事件も、下山氏の死にからんで強行されようとした何かの政界の失敗であり、この失敗そのものが、逆に下山氏の死の微妙ないきさつについて、暗示するところもあるかのようである。 七月十二日の新聞をみると国鉄は十三日から第二次整理六万五千人を行・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・ 昭電事件その他の、世界的な規模をもった政界腐敗の事実を知った私どもは、元大臣、各官庁の高官、その人々の道義の頽廃を痛感するとともに、その人々の妻の道義感がどんなに麻痺していたかということについておどろく。収賄の内容が味噌、醤油から洋服・・・ 宮本百合子 「妻の道義」
・・・この本は政界裏のぞき的なサロンゴシップで真にフランスの悲劇と人民の反ファシズム闘争を反映したものではなかった。一九四五年一月三十日東京に本式の空襲がはじまった。それから〔五〕月まで私の住んでいた本郷区の各所が連続的に破壊・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫