・・・やや旧派の束髪に結って、ふっくりとした前髪を取ってあるが、着物は木綿の縞物を着て、海老茶色の帯の末端が地について、帯揚げのところが、洗濯の手を動かすたびにかすかに揺く。しばらくすると、末の男の児が、かアちゃんかアちゃんと遠くから呼んできて、・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・近ごろの新しい画学生の間に重宝がられるセザンヌ式の切り通し道の赤土の崖もあれば、そのさきにはまた旧派向きの牛飼い小屋もあった。いわゆる原っぱへ出ると、南を向いた丘の斜面の草原には秋草もあれば桜の紅葉もあったが、どうもちょうどぐあいのいい所を・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・あるいは旧派の芝居を見ても、能の仕草を見ても、ここで足をこのくらい前へ出すとか、また手をこのくらい上へ挙げると一々型の通りにして、しかも自分の活力をそこに打込んで少しも困らないではないか。型を手本に与えておいてその中に精神を打ち込んで働けな・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
出典:青空文庫