・・・しかし昨今のように国粋的なものが喜ばれ注意される傾向の増進している時代では、あるいはこうした研究もそれほどに異端視されなくてもすむかもしれないと思われる。「囲碁」や「能楽」のように西洋人に先鞭をつけられないうちにだれか早く相撲の物理学や生理・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・ことに昨今のように米価の高い時はなおさらの損である。一日も早く職業を与えれば、父兄も安心するし当人も安心する。国家社会もそれだけ利益を受ける。それで四方八方良いことだらけになるのであるけれども、その秀才が夢中に奔走して、汗をダラダラ垂らしな・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・紙か羊皮か慥かには見えぬが色合の古び具合から推すと昨今の物ではない。風なきに紙の表てが動くのは紙が己れと動くのか、持つ手の動くのか。書付の始めには「幻影の盾の由来」とかいてある。すれたものか文字のあとが微かに残っているばかりである。「汝が祖・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・その後キンカ鳥の雄が死んだので、あとから入れたキンパラの雄でもあろうか、それがキンカ鳥の雌即ち昨今後家になった奴をからかって、到頭夫婦になってしもうた。その後鶸の雌は余り大食するというので憎まれて無慈悲なる妹のためにその籠の中の共同国から追・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・兵士達云々と云っている林氏のロマンチシズムの横溢は、岡本かの子氏が昨今うたわれる和歌の或るものとともに、恐らく「神の子」たちの現実的な感情にとってはすぐ何のことか会得しかねる種類の修辞であろうと思われる。 尾崎士郎氏は名調子の感傷ととも・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・ 昨今のように、一般の社会状勢が息苦しく切迫し、階級対立が最も陰性な形で激化しているような時期に、鬱屈させられている日常生活のせめてもの明るい窓として、溌剌として、新しい恋愛がどことなし人々の心に翹望されていることは感じられる。しかも、・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 若い女のひとたちに向って、家庭へかえれということがすすめられていたのは遠いことでないが、昨今は職業婦人といわれる女の仕事の範囲も、質的にいつしか、しかし的確に変化しはじめており、家庭へかえれという声もそこでは響きを失っていると見受けら・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ですから、昨今は、日本の看護婦の能力の水準を国際的な高さにまでひき上げるための規則もやかましくなったわけでしょう。 日本の看護婦が欧米の看護婦たちのようによく訓練されていず、しっかりしていないと、ひとくちに云っては、日本の現実を理解しな・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・そして、この不幸は母親ばかりの責任ではなく、我もろとも十分に知りつくしている昨今の東京の交通地獄の凄じさに対して、熱意ある解決をしない運輸省の怠慢について、注意を喚起した。 世間の輿論は、不幸な母親由紀子さんに同情を示し、結局、東京検事・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ それについては多少の経験を持っています。ついどうかした機会に何か言うことがある。そしてその都度不愉快極まる反響を聞くのです。 昨今は私が何か云うと、愚痴とか厭味とか云ってからかわれることになっている。それだけで何の効果もない。何の・・・ 森鴎外 「Resignation の説」
出典:青空文庫