・・・暗かった室がそれとはっきり見える。暗色の壁に添うて高いテーブルが置いてある。上に白いのは確かに紙だ。ガラス窓の半分が破れていて、星がきらきらと大空にきらめいているのが認められた。右の一隅には、何かごたごた置かれてあった。 時間の経ってい・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・壁にそいて右の方にゴチック式の暗色の櫃あり。この櫃には木彫の装飾をなしあり。櫃の上に古風なる楽器数個あり。伊太利亜名家の画ける絵のほとんど真黒になりたるを掛けあり。壁の貼紙は明色、ほとんど白色にして隠起せる模様及金箔の装飾を施せり。・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・ 為事をしているうちに、急に暑くなったので、ふいと向うの窓を見ると、朝から灰色の空の見えていた処に、紫掛かった暗色の雲がまろがって居る。 同僚の顔を見れば、皆ひどく疲れた容貌をしている。大抵下顎が弛んで垂れて、顔が心持長くなっている・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫