・・・榊の葉やいろいろの花にこぼれている朝陽の色が、見えるように思われた。 やがて、家々の戸が勢いよく開いて、学校へ行く子供の声が路に聞こえはじめた。女はまだ深く睡っていた。「帰って、風呂へ行って」と女は欠伸まじりに言い、束髪の上へ載せる・・・ 梶井基次郎 「ある心の風景」
・・・忍ヶ岡と太郎稲荷の森の梢には朝陽が際立ッて映ッている。入谷はなお半分靄に包まれ、吉原田甫は一面の霜である。空には一群一群の小鳥が輪を作ッて南の方へ飛んで行き、上野の森には烏が噪ぎ始めた。大鷲神社の傍の田甫の白鷺が、一羽起ち二羽起ち三・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・ 七 忍が岡と太郎稲荷の森の梢には朝陽が際立ッて映ッている。入谷はなお半分靄に包まれ、吉原田甫は一面の霜である。空には一群一群の小鳥が輪を作ッて南の方へ飛んで行き、上野の森には烏が噪ぎ始めた。大鷲神社の傍の田甫の白鷺・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫