・・・夏草の上に置ける朝露よりも哀れ果敢なき一生を送った我子の身の上を思えば、いかにも断腸の思いがする。しかし翻って考えて見ると、子の死を悲む余も遠からず同じ運命に服従せねばならぬ、悲むものも悲まれるものも同じ青山の土塊と化して、ただ松風虫鳴のあ・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・美しい中年の寡婦ジェニファーが、或る貴族の園遊会でコルベット卿にめぐり会い、その偶然が二人を愛へ導いて結婚することになると、満十六歳の誕生日の祝いと一緒にそのことを知ったイレーネが悩乱して、婚礼の朝、朝露のこめている教会の樹立ちのかげから母・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・そこへ、お前が、耀の翼で触ってやると、人間は、五月の樫が朝露に会ったように、活々と若く、甦るのです。イオイナ ――神々は、私が余り人間の味方をすると云って憤られる。……けれども、あの、蝎の毒でも死ぬように果敢ない肉体を持ちな・・・ 宮本百合子 「対話」
出典:青空文庫