・・・以前にも両三度聞いた――渠の帰省談の中の同伴は、その容色よしの従姉なのであるが、従妹はあいにく京の本山へ参詣の留守で、いま一所なのは、お町というその娘……といっても一度縁着いた出戻りの二十七八。で、親まさりの別嬪が冴返って冬空に麗かである。・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ ただ、一番始末のいい場合は、学問の本山であるところの西洋の第一流の大家達の統括の下に開拓され発達させられた一つの明確な区劃内に限られた部門の中で、かの地の誰やかれが既にかなりまでつつき廻した問題の一方面に若干の確実な貢献をしたというよ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・ 或る日、華厳宗の本山だという東大寺の転害門をくぐりました。その門は大きなもので、又鎌倉時代に、修繕されたとかで、当時の技巧の跡が残っています。そこを進みますと、道の両側の芝生が春の光を浴びてまだらに青ばんで来ているではありませんか。凝・・・ 宮本百合子 「「奈良」に遊びて」
出典:青空文庫