・・・が、空はまるで黒幕でも垂らしたように、椎の樹松浦の屋敷の上へ陰々と蔽いかかったまま、月の出らしい雲のけはいは未に少しも見えませんでした。私は巻煙草に火をつけた後で、『それから?』と相手を促しました。三浦『所が僕はそれから間もなく、妻の従弟の・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・「では都の噂通り、あの松浦の佐用姫のように、御別れを御惜しみなすったのですか?」「二年の間同じ島に、話し合うた友だちと別れるのじゃ。別れを惜しむのは当然ではないか? しかし何度も手招ぎをしたのは、別れを惜しんだばかりではない。――一・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・そこでみんな、ぞろぞろ、休所を出て、入口の両側にある受付へ分れ分れに、行くことになった。松浦君、江口君、岡君が、こっちの受付をやってくれる。向こうは、和辻さん、赤木君、久米という顔ぶれである。そのほか、朝日新聞社の人が、一人ずつ両方へ手伝い・・・ 芥川竜之介 「葬儀記」
・・・昔の人間でも貝原益軒や講談師の話の引き合いに出る松浦老侯のごときはこれと同じ種類に属する若返り法を研究し実行したらしいようであるが、それらの方法は今日一般にはどうも実用的でない。これに反してここで言うところの「映画による若返り法」はきわめて・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・年も続いて来ているので、初めとはよほど顔ぶれが違って来ていたであろうが、その晩集まったのは、古顔では森田草平、鈴木三重吉、小宮豊隆、野上豊一郎、松根東洋城など、若い方では赤木桁平、内田百間、林原耕三、松浦嘉一などの諸君であったように思う。客・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫