一 前島林右衛門 板倉修理は、病後の疲労が稍恢復すると同時に、はげしい神経衰弱に襲われた。―― 肩がはる。頭痛がする。日頃好んでする書見にさえ、身がはいらない。廊下を通る人の足音とか、家中の者の話声と・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・南の裏庭広く、物置きや板倉が縦に母屋に続いて、短冊形に長めな地なりだ。裏の行きとまりに低い珊瑚樹の生垣、中ほどに形ばかりの枝折戸、枝折戸の外は三尺ばかりの流れに一枚板の小橋を渡して広い田圃を見晴らすのである。左右の隣家は椎森の中に萱屋根が見・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・ 九月二十九日夜 三人 モンマルトルの赤馬で食事してかえったら下に速達 板倉鼎 朝六時死 板倉さんに泊る 三十日 夜ペルールにかえり入浴 泊る 十月一日 葬式 雨 十月二日 ひどい風 十二時まで眠る・・・ 宮本百合子 「「道標」創作メモ」
出典:青空文庫