・・・うめは、障子の隙間から板敷を覗いている。その後姿を見、志津はやがて、「あーあ」 小さい欠伸をしながら、「もう何時?」と云った。「日が短い最中だね、四時一寸廻った頃だろう」 うめが、二人の前に顔をさしつけて、「女の・・・ 宮本百合子 「街」
・・・つい先日、玉の井辺のうねり曲った小道から狩り出されて警察のひろい板敷の上に並んで教訓をうけている若い者たちの写真が出ていた。こういうときの彼等も列になって頭を垂れて叱られている。此等の若い者たちは、自分たちの歪められた青春の列を消す力も才覚・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・中は広い廊下のような板敷で、ここには外にあるのと同じような、棕櫚の靴ぬぐいのそばに雑巾がひろげておいてある。渡辺は、おれのようなきたない靴をはいて来る人がほかにもあるとみえると思いながら、また靴を掃除した。 あたりはひっそりとして人気が・・・ 森鴎外 「普請中」
出典:青空文庫