・・・だが、実際の問題、行為の問題として見たとき、このヒューマニズムの核心的翹望である知性と感性、意識と行動との人間的統一は、こんにちの錯雑している実況の中からどういう方法によって実現され得るであろうかという質問が生じるのである。文学として社会的・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・況んや、私たちの生存を貫く建設能力、人間らしく生きる才能の核心であり、その推進の力であり得るだろうか。俗悪出版企業者は、現代の心理の一面を、誇張し、煽情し、刺戟して、一銭でもより多く投じさせようとする。営利映画会社では、より濃厚な情痴の場面・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・このようにして評論家としての小林秀雄は、対象の本質の核心に迫ってそれを明らかにし得ないまま、対象の感性的な印象の周辺をかけめぐることとなった。その果のない駈けめぐりの姿を精緻ならしめ、豊かならしめようとして、表現の逆説的な手法を己れの特色と・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・その重大事態の核心をなすものは何かといえば、食糧の非常手段による調達であろう。住民の非常手段による調達というとき、この間まで日本人の頭に浮ぶのは、往年の米騒動ばかりであった。しかし、今日では、人民の食糧管理という観念が加って来ており、そこに・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・に於けるが如く、プロットの進行に時間観念を忘却させ、より自我の核心を把握して構成派的力学形式をとることに於て、表現派とダダイズムは例えば今東光氏の諸作に於けるが如く、石浜金作氏の近作に於けるが如く、時間空間の観念無視のみならず一切の形式破壊・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・この政策の核心は、日本人に対する精神的指導権を、仏教から儒教に移した、という点にあるであろう。かかる政策を激成したものは、キリシタンの運動の刺戟であったと思われる。 秀吉がキリシタン追放令を発布してから六年後の文禄二年に、当時五十二歳で・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・仏教の日本化を最も力強く推し進めて行ったのは阿弥陀崇拝であるが、この崇拝の核心には、蓮華の咲きそろう浄土の幻想がある。そういう関係から蓮華は、日本人の生活のすみずみに行きわたるようになった。ただに食器に散り蓮華があるのみでない。蓮根は日本人・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
・・・そこには生の真面目は枯れかかり、核心に迫る情熱は冷えかかっていた。生の冒険のごとく見えたのは、遊蕩者の気ままな無責任な移り気に過ぎなかった。生の意義への焦燥と見えたのは、虚名と喝采とへの焦燥に過ぎなかった。勇ましい戦士と見えたのは、強剛な意・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・世間をはばかり、控え目にするという態度そのものが、その好みの核心になっているのである。こういう好みは日本でももう古風であるかもしれないが、藤村にはそれが強く働いていたと思う。金持ちの息子が立派な住居に住んでいるのを批評して、あれでよく恥ずか・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
・・・そうしてみると、顔面は人の存在にとって核心的な意義を持つものである。それは単に肉体の一部分であるのではなく、肉体を己れに従える主体的なるものの座、すなわち人格の座にほかならない。 ここまで考えて来ると我々はおのずから persona を・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫